2024.11.06 【開催報告】大学-医療連携特別講義2回目
本学と教育・研究連携協定を結んでいる神戸市立医療センター中央市民病院の医師と薬剤師から臨床現場の実践を学ぶ薬学部5年次生対象の「大学-医療連携特別講義(薬剤学特論Ⅰ)」今年度2回目の授業が11月5日に行われました。
テーマは「栄養/NST」。司会は元同病院薬剤部長でもある橋田亨教授が務めました。昨年に続き、伊藤次郎医師(麻酔科副医長)と土肥麻貴子薬剤師(薬剤部主任)からそれぞれが担当する同病院の「NST(Nutrition Support Teamの頭文字で、栄養サポートチーム)」の取り組みを中心に報告してもらいました。NSTは院内すべての栄養管理を担当する部署です。2人の講師は、医師、看護師、栄養士、薬剤師など専門職が連携して取り組む多職種連携の大切さも強調しました。。
■スーバースターよりチームワーク
伊藤医師はまず、①なぜ栄養療法が重要なのか②栄養療法とは何をしているのか③栄養療法とチーム医療の関わりは――と三つの問いへの回答で話を進めることを示しました。①については、栄養不良改善のための栄養療法は、さまざまな疾患を治療するアウトカム(予防や治療がもたらす結果)に関係するからだと話しました。アウトカムには、疾患の治癒、ADL、入院期間、医療費などがあるとしました。アウトカムで成果を上げるには、医療設備、人員配置、教育体制など構造的な問題も重要だとも述べました。
②については、患者の栄養状態を把握するスクリーニング、栄養療法の目標を設定し投与する薬剤や経路などを考えるプランニング、投与による患者の病状などの変化を調べるモニタリング、その結果を踏まえて再度計画を練り直すリプランニングの流れを説明しました。
患者の栄養状態を改善できるのは多職種のチームであることから伊藤医師は、「(医療現場では)ドラマで描かれる天才医師のような1人のスーパースターよりチームワークが重要です」と締めくくりました。
■薬剤師にできることは多い
一方の土肥薬剤師はNSTで業務を行うのに必要な、日本臨床栄養代謝学会が認定する「NST専門療法士」の資格を取得しています。5年以上の臨床経験と栄養サポート業務に従事した経験など、資格取得に必要な条件があるといいます。主治医からNSTに「介入依頼」があると、患者の状態を見ながらカンファレンス(情報共有の場)などで話し合い、経口、経腸、経静脈のどの経路から栄養を投与するかなどを決めることを説明しました。NST薬剤師の役割としては、栄養薬剤の選択や適性使用法の指導▽経静脈栄養のプランニングとモニタリング▽合併症の予防と発症時の対策▽栄養管理について患者、家族への説明――など多岐にわたることも分かりました。
さらに土肥薬剤師からはカンファレンスでのそれぞれの専門職の発言の事例を紹介してもらいました。下痢で困っている患者に結腸栄養製剤の投与を変更し、止瀉薬(下痢の治療に用いられる医薬品)の投与を開始する判断に至る議論の経過が読み取れました。最後に他職種のスタッフとのコミュニケーション能力は大切なスキルであると述べ、「栄養療法はより良い医療のための必須条件であり、薬剤の専門家である薬剤師にできることはたくさんある」とまとめてもらいました。
■高齢の入院患者への栄養投与の難しさ
会場の学生からは「主治医の先生とのコミュニケーションで困っていることはありますか。提案しても受け入れられないことはありますか」との質問が土肥薬剤師にありました。土肥薬剤師は「栄養増量の提案をして、今は治療を引いている(控えている)状態だからと受け入れられないこともあります。(病状は)カルテだけでは読み取れないことがありますので、医師に直接尋ねに行くこともあります」と答えました。橋田教授は「(末期のがん患者などの場合、)必要のない栄養をどんどん投与すれば良いという訳ではありません。主治医とNSTとの判断が異なることもあり、難しい問題です」と補足しました。
また、「栄養管理で高齢の入院患者に対して気をつけることは何ですか」との質問も出ました。伊藤医師は「高齢者はあまりやせないように気をつけるというのはその通りです。体重が減りすぎると合併症のリスクもあり、高齢者は若い人と違って少し太っているぐらいがいいと思います。余命が少ないことが分かった場合は、ただ栄養投与すればいいということではなく、倫理的な問題もあります。患者の意志、医学的な妥当性、家族の意向を踏まえて方針を決めます」と答えました。
特別講義の第1回はこちら