2026.05.20 【水谷特命教授】毛の再生を促す毛細血管の新たな機能を発見 ―「血管の再編成」が毛包組織を調節する仕組みを解明―
大学院薬学研究科の水谷健一特命教授、曽瑩(そ えい)博士と、滋賀医科大学、近畿大学、岡山理科大学、大正製薬株式会社、医療法人社団秀博会などの共同研究グループは、皮膚組織内の特定の領域に局在する毛細血管が生理的変化に優先的に応答することで、毛包組織の再生を促す、新たな機能を発見しました。本研究成果は、シュプリンガー・ネイチャー社発行の国際学術誌Scientific Reportsに、2026年4月1日午前10:00(グリニッジ標準時,日本時間JST 18:00)に掲載されました。
【発見のポイント】
①皮膚血管(注1)の動態を明瞭に観察し、定量評価できる実験系を構築しました。
②加齢変化や発毛剤などの薬剤塗布は、全ての皮膚血管に等しく影響を与えるのではなく、毛包(注2)組織の先端部に位置する毛乳頭細胞(注3)周囲の毛細血管が、鋭敏に応答するといった優先性・不均一性が存在することを明らかにしました。
③血管を構成する内皮細胞は、毛乳頭細胞におけるCCケモカインリガンド2(CCL2)などの血管新生ケモカイン分子(注4)の発現を誘導し、そのシグナル伝達は血管と毛乳頭細胞との間のクロストーク(相互作用)を顕著に促進しました。
④毛包周囲血管と毛乳頭細胞との間のクロストークは、組織老化や男性ホルモンの塗布によって劣化することから、これを改善させることが脱毛症やその他の皮膚疾患治療に応用されることが期待されます。
【研究の背景】
血管は、組織を構成する全ての細胞に酸素と栄養を供給すると共に、様々な液性因子などの産生を担っています。臓器ごと・組織ごとに血管の機能は異なり、その多様性の多くは未解明の問題として残されています。本研究では、皮膚組織を構成する毛細血管が生理的変化に応答して、構成細胞の増減や、局在を柔軟に変化させる「血管リモデリング(血管再編成)」(注5)という現象に着目し、その生理的な役割を追究しました。
【研究の概要と成果】
水谷健一特命教授や曽瑩博士らは、若齢と老齢の比較や成長期と休止期の比較、発毛剤や男性ホルモンの塗布などを施したときの、皮膚血管の変化を詳細に観察しました。その結果、皮膚を構成する全ての毛細血管が等しく応答するのではなく、毛乳頭細胞(毛の再生に関わる皮膚の細胞の一種)の近くに局在する毛細血管だけが、優先的に鋭敏な応答性を示すことを発見しました。つまり、毛乳頭細胞の近傍に位置する血管は、毛の再生を司るための特殊な機能を担うことが明らかとなりました。そこで、血管を構成する内皮細胞の培養液で毛乳頭細胞を培養したところ、血管新生ケモカインであるCCL2の供給が顕著に増加することが、血管と毛乳頭の間のクロストークを取り次いでいることを突き止めました。
【研究の意義・今後の展望】
毛包は、毛髪を生み出し支える皮膚内の器官であり、毛の再生を調節しています。これまで、加齢に伴う毛包組織の機能の衰えが毛の再生能力の低下に関与することや、発毛剤が毛包組織の機能回復に作用することが報告されていましたが、その詳細は未解明なままでした。一方、脱毛が進行した頭皮では、毛包周囲の血管新生が低下することが知られていました。今回の発見によって、毛乳頭近傍の血管内皮細胞と毛乳頭細胞との間のクロストークが組織老化によって顕著に減弱することが明らかになったことから、これを改善することで、脱毛症やその他の皮膚疾患の治療に貢献することが期待されます。
<図1の説明>図(A)のように、皮膚組織内における血管内皮増殖因子(VEGF<血管を作るために必要なタンパク>)の局在は、成長期では毛乳頭に顕著な発現が観察されるが(緑色・矢印の部分)、休止期になると毛乳頭では消失する。この毛周期依存的なVEGFタンパクの発現変化と合致して、皮膚組織内の毛細血管の量と局在が劇的に変化する「血管リモデリング(血管再編成)」が観察される。また図(B)のように血管リモデリングは様々な薬剤によって応答し、発毛剤ミノキシジルを1カ月間塗布後に組織を観察したところ、毛細血管は皮膚組織の全体で均一に応答して増加するのではなく、毛乳頭周囲の血管が優先的に応答して増加して毛包組織周辺に集積することを発見した(矢印)。
本論文で明らかになったこと(図2参照)
毛の再生を維持するためには、毛周期依存的な血管リモデリング(血管再編成)が必要であり、特に、毛乳頭近傍への毛細血管の動員が重要な役割を果たす。毛乳頭近傍に誘導された血管は、毛乳頭細胞との間で強い相互作用を示し、これにはケモカインCCL2が重要な働きを示す。この毛乳頭細胞と血管の間のクロストークは発毛剤により促進される一方で、男性ホルモンによって抑制されることが明らかとなった。また、老化による毛の再生能力の低下は、血管の再編成能力の低下が関与する可能性が示された。



【発表雑誌】
掲載誌: Scientific Reports(サイエンティフィック・リポーツ)
掲載日:米国東部時間2026年4月1日
タイトル(和訳):“Preferential Crosstalk between Perifollicular Capillary Vessels and Dermal Papilla Cells during Hair Cycling Homeostasis.”
(毛周期の恒常性における毛包周囲毛細血管と毛乳頭細胞との優先的な相互作用)
著者名:曽瑩、阿部晃也、高島さつき、河野美夕、鍵山怜那、鈴木真理子、森山麻里子、森山博由、安藤秀哉、田中勝喜、市橋正光、依馬正次、水谷健一
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-026-46001-2
【研究グループ】
神戸学院大学、滋賀医科大学、近畿大学、岡山理科大学、大正製薬株式会社、医療法人社団秀博会からなる共同研究グループ
【問い合わせ先】
神戸学院大学 大学院薬学研究科 幹細胞生物学研究室 特命教授 水谷健一
〒650-8586 神戸市中央区港島1-1-3
E-mail: mizutani@pharm.kobegakuin.ac.jp
