2023.07.03 第26回大学-医療連携講演会 報告
薬学部が第26回大学-医療連携講演会を6月16日、ポートアイランド第1キャンパスで対面とオンラインでのハイブリッド方式にて開催しました。
本講演会は近隣の医療機関との教育・研究の連携を図る活動の一つとして、2013年から定期的に開催してきました。今回は、「臨床研究における医療ビッグデータの利活用」をテーマに、2件の一般講演と、特別講演を通じて議論を深めました。
■一般講演①「次世代の薬剤師が向かう教育と研究 ~日々の疑問を臨床研究へ~」
最初の講師、神戸市立医療センター中央市民病院の山岡健太薬剤師からは、臨床現場において気になった疑問について調べることの重要性についての説明がありました。
まず、投与方法を変更した際の安全性や血液中の薬物濃度が報告されていなかった注射薬について、実際に患者から得られた血液サンプルの薬物濃度を測定して安心して投与できるようになった症例を紹介いただきました。後半では、医療データベースを活用することの必要性について説明や、実際に行った副作用データベースを活用した研究についての報告がありました。
質疑応答では、参加者から実際に製剤を切り替えた際の血中濃度の変化や効果について質問が出され、議論が交わされました。
■一般講演②「IT時代の薬剤師育成を考える ~新任臨床教員の立場から~」
次に、大学院薬学研究科の江角悟講師が精神科領域におけるビッグデータを活用した研究について講演し、これからの薬学教育に向けた抱負も述べました。
精神科領域では疾患と表現型が複雑かつ治療薬の効果・副作用発現の個体差が大きいことが問題であり、これを解決するためにビックデータを用いた研究が有用であることを実際の研究成果を交えながらの説明がありました。
また、薬剤師は全処方のうちわずか3%の間違いに気付くという調査があり、処方パターンへの対応力も求められることから、現在はデータを活用し、安全な薬物療法に貢献できる薬剤師の養成を目指して教育されていることを説明しました。また、岡山大学病院薬剤部と共同で行われている薬剤師の思慮課程を考慮した学習アプリの開発についても紹介しました。
■特別講演「薬剤師が求められる医療データベースを用いた研究とは?~世界基準のDB研究について考える~」
最後に浜松医科大学医学部附属病院の八木達也副薬剤部長から、薬剤師が求められる医療データベースを用いた臨床研究についての特別講演がありました。
初めに、医療データベースの種類について基本的な説明があり、データベース間で登録されている患者数や年齢分布に違いがあるため、実際に検証したいテーマに応じて使用するデータベースを分ける必要性があること、また使用する際の注意点についても話していただきました。
後半は具体的な研究の進め方についての内容でした。医療データベースを用いた研究は、臨床現場での「クリニカルクエスチョン」に対処するため、基礎研究の結果を臨床応用に近づける、新たな研究の種を作るための研究であることを教わりました。また、データベース研究を行う上での注意点として、得られた結果はあくまでも関連があることを示すにすぎないことや、研究を行う前にしっかりと科学的な根拠を立てることが重要であることもよく理解できました。
質疑応答ではデータベース研究から臨床研究または臨床研究から基礎研究へ発展させる際の注意事項や使用するデータベースの選定方法などについて質問がありました。
本講演会には、Zoomによる視聴を含めて約80人の本学教職員や学生の皆さん、薬剤師の方々の参加がありました。